つれづれと

色々なことを書く

この作者はアイドルが好き

シンデレラの王子様が魔法を知っていたとしたら。舞踏会に現れたシンデレラのことをどう思うのだろう。美しいと思うのだ。魔法の在り処を知っていても、美しいと思う。シンデレラが、美しかったら。美しいという事実が目の前に広がり、それ以外の如何なる理由も美しいという事実の前には敵わない。だって美しいのだから。そして可愛い。そして格好良い。これらはすべて目の前で起こる事実なのだ。だから思わず可愛い、格好良い、そう叫んでしまってもしょうがない。シンデレラと踊る舞踏会、それは夢のような時間だ。シンデレラは十二時の鐘が鳴ったら帰ってしまう。そうするとシンデレラの魔法は解けてしまうのを、王子様は知っている。知っているから何だというのだ。幻滅するとでも思ったか。シンデレラが落とした硝子の靴を拾い上げ、彼女の正体を探りに行くとでも思ったか。そんなことはしない。シンデレラにだってプライベートはある。一王子がそれを邪魔しにいくというのは、王子の美学に反する。シンデレラと結婚したくないのかだって? 馬鹿いうな。何でその必要がある。何故その願望をもっていると決めつける。シンデレラと結婚はできないんだよ、なんて必要のない憐れみは、シンデレラと本気で結婚をしたい王子にだけ向ければいい。結婚ができなくて、かわいそう、だなんて、そんなことは決してないのだから決めつけはよしてほしい。満足できないのではないか。何故そんなことを思う。さっきの舞踏会中、こんなに満ち足りた気持ちをもらえたのに。この笑顔を見たか。偽りだと思うか。埋めきれない不遇への僅かな穴埋めが目的だと嘲うか。笑止。君は何もわかっていない。よく聞いてくれ。シンデレラは美しい。君はそれを魔法によってだと言う。魔法が解けたらシンデレラもただの人なのだと言う。それを知っていないから美しいと称するのだ、知ってしまったらもう言えない、だなんて言う。ナンセンスだ。間違っている。いいかい、シンデレラは美しさを身に纏って舞踏会に現れた。舞踏会へ行くためには魔法使いの存在が必要だった。シンデレラの前に魔法使いは現れた。それを偶然だと思うかい。いいや。魔法使いはシンデレラのことをちゃんと見ていた。彼女の美しさを、いや、彼女の美しい生き方をちゃんと見て見守っていた。舞踏会に行き、王子に会うのに相応しい人かを見極めた。厳しく、されど優しい目で。シンデレラの今までの生き様が、彼女を舞踏会の舞台へと導いた。だから王子は知っているんだ。シンデレラが美しいことを。この舞踏会の会場に立ったシンデレラが、その事実だけで、彼女の素晴らしさを教えてくれる。彼女の辛い出来事も、苦しみも、ここに来るための努力も、勇気も、胸に秘めた輝きも、彼女が美しいという事実が、教えてくれる。何を見て美しいと言っているか、わかるかい。シンデレラの姿から伝わる、シンデレラの歩んできた道のりを感じて、そう言っているんだよ。……何? シンデレラの素性を知らぬのに、そんなことを言うのは馬鹿だって? シンデレラが本当に美しく生きる灰かぶりであることを、直に確かめなくていいのかって? 必要が、あるかい。目の前に立ったシンデレラに、こんなにも希望と笑顔を与えてもらったのに。その事実を、蔑ろにしていい些末事と捉えるのは彼女にも、魔法使いにも失礼だ。君にはこの視点が欠けている。人を信じることだ。自分の目で見て心が感じたことを、信じることだ。馬鹿みたいな理想の話さ。裏切られるのは怖いという感情を持ったまま、馬鹿みたいに人を信じることを愛と言うのだと信じている。それでも。奇跡であることを信じていたい。自分の信じたい真実を信じたい。馬鹿と言われようが構わない。それよりずっと大事なことを知っている。自分を信じることだ。自分の愛する人を愛した自分の決断を、信じてやることだ。これほど強い想いを誰かに、何かに、持ったことが、あるかい。たったそれだけで人生は大きく輝く。これは感謝の気持ちなのだ。自分の人生に光を灯してくれた存在への、感謝の思いだ。シンデレラ、ああ、シンデレラ。あなたは私の王子様だ。あなたはいつも私たちのことをお姫様だと呼んでくれる。まるで己を舞踏会で姫に見えた幸運な王子かのように言う。でも違う。あなたは性別こそ王子様だけれど、私にとっては、シンデレラ。あなたこそが舞踏会に現れてくれた、私にとっての光、シンデレラだ。社会の中で未だ蔑ろにされ、息をするにも制限がかかる、不自由で怯え苦しいのに、それを認められることもない、平等だ活躍だ、おためごかしに収まる範疇でしか取り沙汰されず、批判をすれば「うるさい」「何様だ」「お前らのためを思って頑張っているのに我儘を言うな」「女のくせに生意気だ」「黙っていろ」そう言われる、それがよしとされる社会で必死に生きても、勝手な理想を押し付けられて、勝手な基準を作られて、勝手に期待されて、勝手に幻滅されて、同じ人と扱われずに、差別され揶揄され暴行され消費され、それすら小さな問題と投げ捨てられて、にこにこ笑って大人しく怒らずに従って楽しく生きていけと言われる、そんな人生で、そんな境遇で、生きている、私たちのことを。あなたは、大事にしてくれる。大切に、愛して、癒してくれる。あなた自身のためにあなたはそうする。私たちはあなたの人生を消費している。等価交換、ただの逆転現象、だからこそ愛と敬意をあなたに与えたい。周りにどんなに邪推されてもここに行き交う愛のことは、否定させない。できない。そうだ。あんたたちにはわからない。わかったような口を、利かないでいただきたい。この光を、脆く汚い偽りのものだと、私よりどうして君が判断できるというのだ。冷静でないのはどちらなのだ。あるものをないと言い張っているのは、一体全体どちらなのだ。

シンデレラと踊る舞踏会は、夢のような時間だ。城内は輝き、熱気に溢れている。王子たちは今日という日のために、新しい服を買い、髪型を整える。普段ものぐさな王子でも、シンデレラに会う日なら、慣れないメイクを久しぶりにする。そんな元気も出ない王子も、シンデレラを見たら元気をもらえると確信して、会場に足を運ぶ。皆がそれぞれのシンデレラとの物語を持っている。今日初めて来る王子も、数年ぶりに来た王子も、今日を最後にしようと思い来た王子も、いる。明日の舞踏会にも参加するために、宿をとった王子もいる。王子たちはショッピングバッグにグッズを詰め、ペンライトを手にして舞踏会の始まりを待つ。会場の暗転に、喉から自然に歓声が沸き上がる。シンデレラが登場する。目の前にシンデレラがいることに、最初はなかなか実感がない。シンデレラは、他のシンデレラたちと歌い踊る。積み重ねてきた練習の成果を、軽々と見えるように舞台上でこなす。シンデレラのウインク一つで、会場が揺れるように沸く。シンデレラたちは、来てくれた王子たちを楽しませるために、たくさんの趣向を凝らす。唾を飲み込んで、思わずペンライトを振る手が止まる瞬間さえある。起きた出来事を目に焼き付けようと、身体が動かない時でさえある。そんな瞬間と、音楽に合わせて身体を揺らすとびきり楽しい時間が交互に来て、身体と心が盛り上がっていく。日常生活では出せないほど大きな声を、身体の底から振り絞る。それが訳のわからないくらい楽しい。シンデレラがこちらに手を振ってくれる。それに全力で振り返す。シンデレラの楽しそうな顔を見て、泣きたくなるほど嬉しくなる。シンデレラがトロッコで反対方向に行ってしまい、少し残念に思う。でも他のシンデレラがこちら側に来るのを見て、とびきり嬉しく興奮する。シンデレラたちが交わすやりとりに、顔が崩れるほど笑みが零れる。少し王子に辛辣な態度をとる様子に、気を許してくれているのだと嬉しくなる。いつもクールに思われているシンデレラが、他のシンデレラたちと王子たちだけのいる舞踏会の空間で、ころころと笑いはしゃぐ様子に安堵とくすぐったい喜びが溢れる。愛おしさに心が包まれていく。王子は、シンデレラが、ここに居てくれる奇跡を知っている。シンデレラたちは、彼らの人生を歩んで生きている。舞踏会が終わったら確かに家に帰る。でももっと大きな舞踏会での、十二時の鐘がもし鳴って、魔法が解けたら、シンデレラは、シンデレラでなくなることもできる。灰かぶりの少女には、大切なネズミの友達もいて、いじわるでない家族がいて、ひょっとしたらたった一人の特別な愛する人もいるのかもしれない。それをただの王子である私は知ることができない。舞踏会にいる間の、シンデレラのことしか知られない。シンデレラの話す言葉が私にとっての彼の真実になる。永遠にわからない真実を信じて愛し続けるのが馬鹿で危ういことだと思うか。でもこうも思わないか。馬鹿のように人を愛し続けられることの、なんと素晴らしいことか。馬鹿のように愛せる人を見つけられた人生の、なんと素晴らしいことか。奇跡みたいな、得難き出逢いだ。シンデレラに出逢わなかったら私は、どうなっていたかわからない。彼のくれた光が希望となって、私を生かす。彼と同じ時代を生きられるだけで、生まれてきてよかったと心から思える。彼が如何なる未来を決めようと、過去に彼からもらった笑顔や希望は変えられない。彼らの幸せをただ願う。たとえシンデレラでなくなったとしても。シンデレラであった記憶と、自分を想ってくれる存在がいることを大事に生きてくれる限りは。シンデレラたちよ、シンデレラでいてくれてありがとう。シンデレラでなくなった者たちよ、シンデレラでいてくれてありがとう。舞踏会の感動した思い出は消えない。十二時の鐘が鳴っても、私たちは忘れない。舞踏会の開かれる限り、また何度でも踊りに行こう。シンデレラの美しさがある奇跡を、何度でも噛み締めよう。ここにある愛を、誰にも否定させやしない。あなたからもらった元気で、私は世界に愛を届けたい。光の明滅を、世界に広げていきたい。夢のような時間のために、多くの必死な現実が生きている。だからこの夢が抱き締めたいほど愛おしいのだ。だからこの夢は現実を生きる力に変わるのだ。だからあなたとの舞踏会はこんなにも楽しく、美しいのだ。シンデレラ。ああ、私の大好きな王子様。きっとまた、舞踏会でお逢いしましょう。私の愛する大好きな、アイドルの、シンデレラ。